・・・瀬や淵へ潜り込む。あがって来るときは口のなかへ一ぴき、手に一ぴき、針に一ぴき! そんな溪の水で冷え切った身体は岩間の温泉で温める。馬にさえ「馬の温泉」というものがある。田植で泥塗れになった動物がピカピカに光って街道を帰ってゆく。それからまた・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・他人の研究を記述した論文を如何によく精読したところで、その研究者自身の頭の中まで潜り込む事が出来ない以上は、その人の得た結果を採用するという事にはやはりこのイズムの匂がある。 しかしそこまで考えて行くと、人間の知識全体から自分の直接経験・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・て衣食の道を講じていいか知らなかったほどの迂濶者でしたが、さていよいよ世間へ出てみると、懐手をして待っていたって、下宿料が入って来る訳でもないので、教育者になれるかなれないかの問題はとにかく、どこかへ潜り込む必要があったので、ついこの知人の・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ ――宇都の宮じゃないが、吊天井の下に誰か潜り込む奴があるかい。お前たちは逃げたんじゃないか。死刑の宣告受けてない以上、どうしても俺は入らない。 私は頑張った。 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
出典:青空文庫