・・・ それからまた、ちょっと見ると火打ち石のように見える堅緻で灰白色で鋭い稜角を示したのもあるが、この種のものであまり大きい破片は少なくもこのへんでは見当たらない。 厚さ一センチ程度で長さ二十センチもある扁平な板切れのような、たとえば松・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・そうして、その引き出しの中には、もぐさや松脂の火打ち石や、それから栓抜きのねじや何に使ったかわからぬ小さな鈴などがだらしもなく雑居している光景が実にありありと眼前に思い浮かべられる。松脂は痰の薬だと言って祖母が時々飲んでいたのである。 ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばった燧石の山を越えて、のっしのっしと、この森にかこまれた小さな野原にやって来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしていたのです・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
出典:青空文庫