・・・お袋がこう言うと、「おりゃアいつも無礼講で通っているから」と、おやじはにやりと赤い歯ぐきまで出して笑った。「どうか、おくずしなさい。御遠慮なく」と、僕はまず膝をくずした。「お父さんは」と、お袋はかえって無遠慮に言った、「まァ、下・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「無礼講」という言葉が残っており、西洋でも「エプリルフール」という事がある。 あれほど常識的な英国にでもわれわれに了解の出来ないほど馬鹿げた儀式が残っているようであるが、それが今日では単に国粋保存というような意味ばかりでなく、つまり・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 出入りの鳶の頭を始め諸商人、女髪結い、使い屋の老物まで、目録のほかに内所から酒肴を与えて、この日一日は無礼講、見世から三階まで割れるような賑わいである。 娼妓もまた気の隔けない馴染みのほかは客を断り、思い思いに酒宴を開く。お職女郎・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫