・・・ちょうどそれと同じように、無線電信や飛行機がいかに自然を征服したと云っても、その自然の奥に潜んでいる神秘な世界の地図までも、引く事が出来たと云う次第ではありません。それならどうして、この文明の日光に照らされた東京にも、平常は夢の中にのみ跳梁・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・化学工場からは、毒瓦斯を、肥料工場からは――肥料会社は、肥料を高い値で百姓に売りつけるが、必要に応じて、そこから火薬が出来るようになっている。無線電信も、鉄道も、汽船も、映画や、演劇までも、帝国主義ブルジョアジーは、それを××のために、或は・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 四 しかし、震災の突発について政府以下、すべての官民がさしあたり一ばんこまったのは、無線電信をはじめ、すべての通信機関がすっかり破かいされてしまったために、地方とのれんらくが全然とれなくなったことです。市民たち・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・発明ですよ。無線電燈の発明だよ。世界じゅうに一本も電柱がなくなるというのはどんなにさばさばしたことでしょうね。だいいち、あなた、ちゃんばら活動のロケエションが大助かりです。私は役者ですよ。」 マダムは眼をふたつ乍ら煙ったそうに細めて、青・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・発動機船もなく天気予報の無線電信などもなかった時代に百マイルも沖へ出ての鮪漁は全くの命懸けの仕事であったに相違ない。それはとにかく、この男の子が鳥目で夜になると視力が無くなるというので、「黒チヌ」という魚の生き胆を主婦が方々から貰って来ては・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ 烏瓜の花が大方開き切ってしまう頃になると、どこからともなく、ほとんど一斉に沢山の蛾が飛んで来てこの花をせせって歩く。無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそらく蛾が一種の光度計・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ からすうりの花がおおかた開ききってしまうころになると、どこからともなく、ほとんどいっせいにたくさんの蛾が飛んで来てこの花をせせって歩く。無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ この二十世紀の巧妙な有線電信機の生命となっている同時調節の応用も、その根本原理においては前記の古代ギリシアの二千何百年前の無線光波通信機の原理と少しも変ったことはないのである。 写真電送機械の機構にもやはり同様な原理が応用されてい・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 観測器械を入れたテントのそばには無線電信受信用のアンテナが張ってある。毎日午前十一時とかに東京天文台から放送される時報を受け取ってクロノメーターの時差を験するためである。 このテントから少し北に離れて住居用の長方形テントが張ってあ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・乗組員は全部墜死してしまい、しかも事故の起こったよりずっと前から機上よりの無線電信も途絶えていたから、墜落前の状況については全くだれ一人知った人はない。しかし、幸いなことには墜落現場における機体の破片の散乱した位置が詳しく忠実に記録されてい・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
出典:青空文庫