・・・それを、お前が無茶云うから、船長だって憤るんだ」 セコンドメイトは、栗のきんとん見たいな調子で云った。 そのきんとんには、サッカリンが多分に入っていることを、私は知っていた。その上、猫入らずまで混ぜてあったのだが、兎に角私は、滅茶苦・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・思想が狂ってると同時に、神経までが変調になったので、そして其挙句が……無茶さ! で、非常な乱暴をやっ了った。こうなると人間は獣的嗜慾だけだから、喰うか、飲むか、女でも弄ぶか、そんな事よりしかしない。――一滴もいけなかった私が酒を飲み出す・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・「ひっぱりようがこの頃と来ちゃア無茶だもん。うかうか往来も歩けやしねえや」 満州で侵略戦争を開始し、戦争熱をラジオや芝居で煽るようになってから、皮肉なことにカーキ色の癈兵の装で国家のためと女ばかりの家を脅かす新手の押売りが流行り、現・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 戦争中という言葉が、今日いわれる場合、私たちは一言の説明を加えないでも、それが苦しかった時代、無茶な抑圧のあった時代、人権がふみにじられていた時期として、心が通じ合う。一冊の雑誌、一冊の本、風呂屋、理髪店での世間話さえ、それが戦争につ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫