・・・ 私はきっと無駄骨だと思って居たが。「世の中は、うまく出けたもんで捨る神あれば又拾う神ありや。鬼ばかりは居らへん。「有難いもんですねえ。 お金は十円札に厭味な流し眼をくれて口の先で笑った。「けど何なんでしょう、・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・――無駄骨だヨ」 その頃、前科五犯という女賊が入っていて、自分は栃木刑務所、市ケ谷刑務所の内の有様をいろいろ訊いた。栃木の前、その女は市ケ谷に雑役をやらされていて、同志丹野せつその他の前衛婦人を知っているのであった。 市ケ谷の刑・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そこでわたくしは無駄骨を折らなくてもいい事になる。あんな御亭主に比べて見れば、わたくしは鬚ぐらい剃らずにいたって、十割も男が好いわけですからね。そこでわたくしは段々身だしなみをしなくなる。焼餅も焼かなくなる。恋が褪め掛かる。とうとう恋も何も・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫