・・・依て窃に案ずるに、本文の初に子なき女は去ると先ず宣言して、文の末に至り、妾に子あれば去るに及ばずと前後照応して、男子に蓄妾の余地を与え、暗々裡に妻をして自身の地位を固くせんが為め、蓄妾の悪事たるを口に言わずして却て之を夫に勧めしむるの深意な・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・と相照応して面白く覚えたれば爰に載録す。写生画もまた子規子の画として面白けれど載すること能はざるは遺憾なり。猫の写生画 明治卅二年十月九日「飯待つ間」といふ原稿書きをへし処に、彼子猫はやうやくいたづら子の手を逃れ・・・ 正岡子規 「飯待つ間」
・・・更にフェルナンデスは、左右両翼のいずれへ作家が思想的立場を決定することも、歴史と思想の現状になんら照応しない観念、あるいは感じ方の最後的な表現としている。或る種の作家は孤独にあってなし得る時代に対する道徳上の確言があることを強調しているので・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・新しい民主主義の全延長における背景的部分、半封建的なものとのたたかいの部分に照応する活かされかたが当然いると思う。それはなんとまとめて表現されるべきだろうか。現実を発展の過程において理解し、描き、かぎりない発展の可能をもつ民主主義の前途に期・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・物に対して示す敏感さ、都会の人間やいわゆる学問のあるハイカラな人間や、その習慣に対して抱く警戒、嫉妬をもった皮肉な軽蔑、男女関係についての異常に強い好奇心などを、農民の上におかれている社会関係の重圧と照応するものとして、とらえようとしている・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・個々の作品を厳密に批判すれば、種々不足としてあげられる諸点はあるが、同志小林が、たゆまず倦まず、日本におけるプロレタリア運動のレーニン的発展過程に照応し、正しい革命的理論を創作活動のうちに生かそうとしつづけた高邁な努力は、プロレタリア作家の・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・東西を一貫し互に照応し合う歴史的現実として綜合的に掴んで示されていないことにある。この本の著者の人間的感情と世界観とは、西と東との区分を踏襲しようとする保守性などを持たないことは自明である。もしこの次にこの種の労作が期待されるのであったら、・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・荷風の本質は多分にお屋敷の規準、世間のおきてに照応するものを蔵していて、しかもその他面にあるものが、自身の内部にあるその常識に抵抗し、常識に納まることを罵倒叱咤し、常識の外に侘び住まんことを憧れ誘っている。ロマンティストであるとして荷風のロ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫