・・・鍋はあるとした上でも、これだけのものを沸騰させ煮つめるだけの「燃料」を自分は貯えてあるだろうか。 この点に考え及ぶと私は少し心細くなる。 厄年の関を過ぎた私は立止ってこんな事を考えてみた。しかし結局何にもならなかった。厄年という・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・けだし学者のために安身の地をつくりてその政談に走るをとどむるは、また燃料を除くの一法なり。 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・工場が燃料に欠乏を感じぬ日は一日もない。工場用の水はきたない。そのために製造したバタの品質が低下する。上ナザロフ村にもう一つバタ工場がある。そこの建物はひどい有様だ。扉はこわれている。寒くて働けぬ。この間支配人はクラスノヤルスク・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・実にはっきり、燃料となり、代用食事の手間のかかる支度となって女性の二十四時間にくいこんで来ている。しかも、十年前にくらべると、一日のうちに自由時間を一時間半しかもてなくなって来ているこれらの主婦が目にふれ耳にきくのは、アメリカの電化された台・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
○ 支那事変がはじまって五年、大東亜戦争がはじまって満一ヵ年と十ヵ月経って秋も深くなった。 燃料がどこの家でも不如意になって来ていて、風呂たきは注意ぶかい一家の行事の一つとなった。 いろいろのも・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・そんなさわぎにまるで関係なく、燃料のとぼしい台所で、せめて子供のためにと、おいものきんとんを煮ていた主婦たち。さまざまの人の姿の上に一夜があけて、まずどうやら年を越した、おめでとう、と云い交すひとの心のなかには、あながち、古いしきたりばかり・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ 毎朝日本の総ての婦人はどんな燃料で、どれだけの時間をかけて、どんな代用食を作っているでしょうか。私達の使っている燃料とその燃料が使えるようなかまど、いもや粉の代用食、これ等総ては近代的でしょうか。私達のおばあさん、ひいおばあさん達がま・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ しかし今日のわたしたちの生活にはまず電力節減、燃料不足などという、極めて原始的な困難から始って、温い冬の靴下がないという困難にまで及んでいます。どんな人でもくさくさすればそこから自分の心持を紛らすことを望みます。どんな若い人が自分の青・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 然し、めいめいが僅かばかりの肉だ、野菜だとわざわざ市場へ出かけて手間どって買って、燃料をかけて不美味いものをこさえるよりは、専門家が、材料も選び、料理に腕をふるったものの方が、やすいし、美味いし、第一時間がはぶけ、どんなに暮しが身軽く・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・その頃でさえ、全露作家協会の共同金庫は、生活に余裕ない作家の生活援助のために保健費を出したり、原稿料の一部の前借を計らったり、消費組合をもって燃料、織物などの共同購入の便宜を計らっていた。一九三〇年頃には便利な食堂も出来ていた。ノビコフ・プ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫