・・・ 女らしさは一番家庭生活と結びついたものとしていわれているかのようでありながら、そういう観念の発生の歴史をさかのぼって見れば、現代でいう家庭の形が父権とともに形成せられはじめたそもそもから、女ののびのびとした自然性の発露はある絆をうけて・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・が今の日本で上演される価値は、主人公たる二組の恋人たちが、アテネ市の封建的な父権に抗して郊外の森へ逃げ、貴族的な支配者の権力を妥協させて、めでたく結婚するという、意欲と行動との一致した人間性の主張にあると示されている。たしかに、それは「嫁に・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・同時に、今日の世界に生きている読書人にとっては、例えばギリシア人の間で母権から父権への推移が生じた原因を、バッハオーフェンの説明したように、宗教的観念の発達した結果新しい神々が旧いギリシアの神々の間にわり込んで来て勝利したからであると考える・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・で、ベルクナアが示したような表面の技法で、内実は父権制のもとにある家庭の娘、戸主万能制のもとにある妻、母の、つながれた女の昔ながらの傷心が物を云っているところにある。女の過ちの実に多くが、感情の飢餓から生じている。その点にふれて見れば、女の・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・最近までの日本のように強い封建性の影響の残っている国では、父権は悲劇的な威力をふるって一家を支配した。父権につれて尊重され始めた家系というものがその利害や体面のため、同族の女性をどれほど犠牲にして来たかということは、日本の武家時代のあわれな・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・太古のあどけない平等は失われ、財産の主人である男の父権が確立して女子はそれに従属するものとなりはじめた。奴隷としてつれて来られた他氏族の者の中には勿論女も交っていて、それは女奴隷として労働させられ、男の所有ともなされた。この時代から女性は男・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫