・・・プランクの講義も言葉が明晰で爽やかで聞取りやすい方であった。第一回の講義の始めに、人間本位の立場から物理学を解放すべきことや物理的世界像の単一性などに関する先生の哲学の一とくさりを聞かせた。綺麗に禿げ上がった広い額が眼について離れなかった。・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・そして試みにその眼鏡を借りて掛けて見ると、眼界が急に明るくなるようで何となく爽やかな心持がした。しばらくかけていて外すと、眼の前に蜘蛛の糸でもあるような気がして、思わず眼の上を指先でこすってみた。それから気が付いて考えてみると、近頃少し細か・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 子供は、早朝の爽やかな空気の中で、殊に父に負ぶさっていると云う意識の下に、片言で歌を唄いながら、手足をピョンピョンさせた。――一九二六、一一、二六―― 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ わたしは、工場を見ているうちに一歩一歩と、水浴びでもした後のようにいきいきと爽やかな気分になった。「未来は我らのものである」という強い確信は、こうしてソヴェトの労働生活の現実的な建設によって一つ一つ実現されつつあるのだ。希望と勇気にみ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・そのみじんも暗さのかげのない文章の爽やかさ、躊躇なさに、書いた作者が自身への反撥をさえ感じた。 このことは、些細な経験のようであるが、日本の民主的な精神が歩いて来た歴史のひとこまとして意味の小さくないことだと思う。一九四五年の八月が来て・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ 宗達の芸術家としての直感が、生命の爽やかさに充ちていたことが、ここにも窺われると思う。彼は、画面の隅から隅までが豊かに息づいて滞らないことをのぞんでいる。もし背中だけ向けている三人を大きく出せば、生動する画面に計らず一つらなりのめくら・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ しかしながら、果して大人の世界が、こういう目も爽やかな、責任ある自由な生きかたによって営まれているでしょうか。 賢い少女たちは、実際を鋭く見抜いていると思います。今日の新聞を一頁よめば、到るところに、永年の嘘の皮が剥げて現れた醜い・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・すぐあがった雨のあとは爽やかな青空だ。落葉のふきよせた水たまりに、逆さにその空がうつっている。――夕方、東京で云えば日本橋のようなクズニェツキー・モーストの安全地帯で電車を待った。 チン、チン、チン。 ベルを鳴らして疾走して来る電車・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・今月は雨が多く、鬱陶しく壁の湿っぽいような日が続いたが、今日はまがうかたない六月の天気だ。爽やかで、初夏らしく暑い。暑く、外光の燦らかなのが心持よい。十七の女中と、閑静な昼食をたべた。――今頃、Yはどの辺だろう。汽車の中は今日のような天気で・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・、例えば、きょうは暑くて苦しいから、勉強部屋の掃除をさっぱりして、裏庭から草花をとって来てそれをさし、フロをたきつけ、それを浴び、きのう下げてきたフトンの日によく乾したのをベッドに入れ、夕立が来た頃は爽やかな、うるおいのある心持で横になって・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫