・・・ツルゲーネフも、それにつれて外側から観察しそれぞれの時代の作品を書いて行ったが、パリにおける自身の生活の実践ではヴィアルドオ夫人に支配され、始めの時代の懶い形態から本質的には何の飛躍もしないままに残ったのである。 同じように婦人のために・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ ――いかにも物懶さと云い、何処やら地から生え抜き日本離れのした雰囲気と云い、面白いのだが、私共は或虫、その他心配で迚も泊る気にはなれなかった。私は旅館の相談旁々、紹介を得て来た図書館長の永山氏に電話をかけた。私、早口になると見え、電話・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・左右に其等の静かな、物懶いような景物を眺めつつ、俥夫は急がず膝かぶを曲げ、浅い水たまりをよけよけ駈けているのだが――それにしても、と、私は幌の中で怪しんだ。何故こんなに人気ない大通りなのであろう。木造洋館は、前庭に向って連ってい、海には船舶・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・彼等は、自分たちが訪問することさえ思いつかなかったセミョーノフの不潔きわまる地下室「日がな一日沸ぎっている湯が眠そうに、気懶るそうにピストンを動かし」「濃い、臭い、いきれ立つ湯気の中で」日頃彼等の夢想しつつある民衆の新たな一典型が成長しつつ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・暖い大地の、不思議な物懶さと、陰鬱が、にぎやかな色彩に包まれて澱んで居るのである。南部に近い温帯の眠たさ、永遠の晩秋で冬は来ないのだろう。風のない、ひっそりとした風景。 耳の長いドンキに、綿をつんで、赤ちゃけた道をコロコロと転って行・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫