・・・そうして、バルザックはどうしてこんな衒学的な物言いをするのであろうかと不思議がる。翻訳しながら読むのでは疲れるから、もっとさっぱりした簡単なのがよいというので、「トゥールの司祭」を開いて読んでゆく。そして、そのうちに彼は、はたと逡巡する。「・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・意味に忠実であるばかりでなく、シチェードリンのむずかしい文章の脈うちの特徴や、作品人物の性格的な物言いの癖までも日本文のなかに捕えようと試みていて、そのために、一応「わが友」と書いた字のよこへ、お前、お前さん、君、とふりがなをつけて読ますこ・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・唇は物言いたげに動いていたが、それから言葉は一ツも出ない。 折から門にはどやどやと人の音。「忍藻御は熊に食われてよ」 ―――――――――――――― ついでながらこのころ神田明神は芝崎村といッた村にあッてそ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・そこには卒直な物言いの人の知らないような、細かいセンスが働くであろう。私はそういうセンスが藤村の文体と密接に関係しているように感じる。一例をあげると、藤村のしばしば使っている「……と言って見せた」という言い回しである。前後の連関から見て、他・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫