・・・『ソラここを読んで見ろ』と僕の眼前に突き出したのが例の君、臣を視ること犬馬のごとくんばすなわち臣の君を見ること国人のごとし云々の句である。僕はかねてかくあるべしと期していたから、すらすらと読んで『これが何です』と叫んだ。『お前は日本・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・天才の奇蹟か、もしくは、犬馬の労か。 合い憎のことには、私の場合、犬馬の労もなにも、興ざめの言葉で恐縮であるが、人糞の労、汗水流して、やっと書き上げた二百なにがしの頁であった。それも、決して独力で、とは言わない。数十人の智慧ある先賢に手・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・ひとりじめの机の上いいんだよさきを歩く人は白いひげの 羊飼いのじいさんにきまっているのだみんなのものサインを消そうみなさんみなさんおつかれさん 犬馬の労骨を折って やっと咲・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・また曰うた、今之孝者是謂能養、至犬馬皆能有養、不敬何以別乎。体ばかり大事にするが孝ではない。孝の字を忠に代えて見るがいい。玉体ばかり大切する者が真の忠臣であろうか。もし玉体大事が第一の忠臣なら、侍医と大膳職と皇宮警手とが大忠臣でなくてはなら・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・夫の常に愛玩する物は犬馬器具の微に至るまでも之を大切にするは妻たる者の情ならずや。況んや譬えんものもなき夫を産みたる至尊至親の老父母に於てをや。其保養を厚うし其感情を和らげ、仮初にも不愉快の年を発さしむることなきよう心を用う可し。殊に老人は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・警察は会社のために犬馬の労をとったのだ。――そうでしょう? あの親父さんの本心では、どうして呉れる! と叫んで来たのだ」 それぎり黙りこみ、新聞を読み出した。が、自分の心は深い一点に凝って、暫く動かなかった。 おとといのことだ。朝か・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫