・・・君はここでそのありたけの深謀をちゃんちゃんこの裏にめぐらして最後の狙いを定めて「ズドーン」と云って火蓋を切る真似をする。うまく当れば当てられたのが代って「加八」になり当てた「加八」が庄屋になる。当らなかったら当るまで同じことを繰返すのである・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・デリベレイトに狙いすましては一筆ずつ著けて行ったものだろうと想像される。そういう点で、これらの絵は、有り来りの油絵よりは、むしろ東洋画に接近しているかもしれない。 この人の絵には詩が無いという人もあるが、強ちそうでもないと思う。少なくも・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・ 多くのレビューでは、見ている間だけ面白くて、見てしまったあとでは綺麗に忘れてしまうのがむしろその長所であり狙い所ではないかと思うが、物理やその他の科学の教科書はそれでは困りはしないか。 三つのものを一つに減らしてもその中の一番根本・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・それは犬殺しが何処かで赤犬の肉を註文されて狙いをつけたのだから屹度殺してやるとそこらで放言して行ったということを知らせる為めであった。文造は心底から大事と思って知らせたのであったが然し此は知らなかった方が却て太十にも犬にも幸であったのである・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・余輩敢えて人の信心を妨ぐるにはあらざれども、それ程にまで深謀遠慮あらば、今少しくその謀を浅くしその慮を近くして、目前の子供を教育し、先ず現世の地獄を遁れて、然る後に未来の極楽をも狙いたきものと思うなり。 右は一人の教育を論じたるものなり・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・少くともここに押しよせた連中は二十分の停車時間の間に、たった一人ののぼせた売子から箱かインク・スタンドか、或はYのようにモスクワから狙いをつけて来ている巻煙草いれかを、我ものにし、しかも大抵間違いなく釣銭までとろうと決心して、ゆずることなく・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 野蛮な権力は、文学面で狙いをつけた一定の目標にむかって、ほとんど絶え間のない暴威をふるった。一人の人間の髪の毛をつかんで、ずっぷり水へ漬け、息絶えなんとすると、外気へ引きずり出して空気を吸わせ、いくらか生気をとりもどして動きだすと見る・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・そして、ざっくばらんに云えば、そこがこの作者の云わば狙いどころとしての成功であり、作品のひとくせあるところでもあるのではなかろうか。作者の中には、こういうシステムをもつひともあるものである。別な例だが、横光利一という作家のシステムも、わかる・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・けれども、狙いをつけていざ飛ぼうなどとする時、翼を引緊めた姿を横から見ると、大きい肉色の嘴は、何という毒々しく、猛々しく感じられることだろう…… ――いつか四辺がひっそりとなった。小鳥はもう囀らない。はしばしがとけ、土にくまどられた雪の・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・ 竹藪の方から、泥棒がみんなの借りている座敷のあたりを狙いはじめた。子供らは、何にも知らず眠るのだが、起きると、大人たちが、昨夜も貝がらを踏む跫音がした、そこの板じきに足跡がついていると、物々しいことになった。和尚さんが、いくら呼んでも・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫