・・・しかし其処に独特のシャルム――たとえば精神的カメレオンに対するシャルムの存することも事実である。 宇野浩二は本名格二郎である。あの色の浅黒い顔は正に格二郎に違いない。殊に三味線を弾いている宇野は浩さん離れのした格さんである。 次手に・・・ 芥川竜之介 「格さんと食慾」
・・・の所へ独特のアクセントをつけて言う。そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。松浦君、江口君、岡君が、こっちの受付をやってくれる。向こうは、和辻さん、赤木君、久米という顔ぶれである。そのほか、朝・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・殊に作家を煽動して小説や戯曲を書かせることには独特の妙を具えていた。僕なども始終滝田君に僕の作品を褒められたり、或は又苦心の余になった先輩の作品を見せられたり、いろいろ鞭撻を受けた為にいつの間にかざっと百ばかりの短篇小説を書いてしまった。こ・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・そうして自己独得の芸術的感興を表現することに全精力を傾倒するところの人だ。もし、現在の作家の中に、例を引いてみるならば、泉鏡花氏のごときがその人ではないだろうか。第二の人は、芸術と自分の実生活との間に、思いをさまよわせずにはいられないたちの・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・この点は純粋の九州人に独得な所である。一時にある事に自分の注意を集中した場合に、ほとんど寝食を忘れてしまう。国事にでもあるいは自分の仕事にでも熱中すると、人と話をしていながら、相手の言うことが聞き取れないほど他を顧みないので、狂人のような状・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・地震で焼けた向島の梵雲庵は即ち椿岳の旧廬であるが、玄関の額も聯も自製なら、前栽の小笹の中へ板碑や塔婆を無造作に排置したのもまた椿岳独特の工風であった。この小房の縁に踞して前栽に対する時は誰でも一種特異の気分が湧く。就中椿岳が常住起居した四畳・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・東節の批評はほぼ同感であったが、私が日本の俗曲では何といっても長唄であると長唄礼讃を主張すると、長唄は奥さん向きの家庭音曲であると排斥して、何といっても隅田河原の霞を罩めた春の夕暮というような日本民族独特の淡い哀愁を誘って日本の民衆の腸に染・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ことに、東京で美術学校生活を送ったことのある一種のインテリであり、芸術家であるという男が、独得の大阪弁で喋っているというところに面白さがあるが、しかし、この作品はまだ大阪弁の魅力が迫力を持っているとはいえず、むしろ「楽世家等」などの余り人に・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・その間に横井は、彼が十年来続けてるという彼独特の静座法の実験をして見せたりした。横井は椅子に腰かけたまゝでその姿勢を執って、眼をつぶると、半分とも経たないうちに彼の上半身が奇怪な形に動き出し、額にはどろ/\汗が流れ出す。横井はそれを「精神統・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・それが青春の独特な歓楽をつくり出すところの種箱なのだ。それが青年を美しくし、弾力を与え、ものの考え方を純真ならしめる動機力なのだ。 私は青春をすごして、青春を惜しむ。そして青春が如何に人生の黄金期であったかを思うときにその幸福を惜しめと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫