・・・無産者の独裁政治とは、おそらくかかるものを意味するのであろう。まことに一つの生活様式が他の生活様式に変遷する場合において、前代の生活様式が一時に跡を絶って、全く異なった生活様式が突発するという事実はない。三つの生活様式の中間色をなす、過渡期・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・これは人間の独裁的な支配を憎んだのですが、人間の社会に於て、貧しい者と富める者と、あることは、ある程度まで、仕方のないことゝしても、全く食うに欠け、着るに物がないとしたら、それは、自然の理法を誤っていることであって、組織の罪に帰さなければな・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・ × プロレタリヤ独裁。 それには、たしかに、新しい感覚があった。協調ではないのである。独裁である。相手を例外なくたたきつけるのである。金持は皆わるい。貴族は皆わるい。金の無い一賤民だけが正しい。私は武装蜂起に賛・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・のごとき意味での独裁的主役は無い、むしろいろいろな個性の配合そのもののほうに観客のおもなる興味がつながれているように思われる。それでたとえば軽い意味の助演者としてのスパークスなどという役者でも決してただのむだな点景人物ではなくて、言わば個性・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・また、がむしゃらに打ちふるのでは号外屋の鈴か、ヒトラーの独裁政治のようなものになる。自由はわがままや自我の押し売りとはちがう。自然と人間の方則に服従しつつ自然と人間を支配してこそほんとうの自由が得られるであろう。 暑さがなければ涼しさは・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主義その他、極東軍事裁判の法廷が、それをこそ共同謀議の思想として、有罪を宣告したファシズムの思想である。あるい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ ところが、そういう社会的現象をみんなひっくるめて、プロレタリアート独裁下のソヴェト生活という風な大主題を扱おうとすると、諷刺文学はいつもプロレタリアート的成功をかち得るとはきまらない。 ミハイル・アファナシェヴィッチ・ブルガーコフ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ナポレオンの独裁がはじまった時、ライン十六州は、ライン同盟を結んでナポレオンを保護者とし、その約束によって商工業の自由も守られ、ドイツの反動政策の圧迫にかかわらず、進歩的な自由思想が充ちていた。 こういう特色をもった十九世紀初頭のライン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 一九二九年の世界大恐慌から後一九三三年ナチス独裁が樹立するころ、ケーテの生活はどんなふうであったのだろう。シュペングラーが「婦人は同僚でもなければ愛人でもなく、ただ母たるのみ」という標語を示した時、母たるドイツの勤労女性の生活苦闘の衷・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 成程、ソヴェト同盟はプロレタリア独裁の国だ。社会的生産に関与する社会労働が基礎になっているから、小学校にしろ、ただ小学校とは云わず単一勤労学校と云う名称だ。 子供は小さいときから社会的勤労・生産・社会主義の建設とはっきり結びついた・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫