・・・また芸術的実写映画としての山岳映画や猛獣映画のごときものについても一通り述べたかったのであるが、これらについても他日適当な機会に、他の場所で一応の考察を試みたいと思う。 本編を草するために参考にした書物は次のようなものである。V・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・はじめには負傷者の床の上で一枚の獣皮を頭から被って俯伏しになっているが、やがてぶるぶると大きくふるえ出す、やがてむっくり起上がって、まるで猛獣の吼えるような声を出したりまた不思議な嘯くような呼気音を立てたりする。この巫女の所作にもどこか我邦・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・従来の猛獣映画に比べて多少の特色はあるようである。見えすいた芝居が比較的少ないので、見ていて気持ちがよく、退屈しなくてすむ。 象が人間に使われて実によく命令を聞き、見かけに似合わず小まめに仕事をする。あれほど利口なこの動物がどうして人間・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
映画「マルガ」の中でいちばんおもしろいと思ったのは猛獣大蛇などの闘争の場面である。 闘争を仕組んだのは人間であろうが、闘争者のほうではほんとうに真剣な生命をかけた闘争をして見せるのであるから、おもしろくないわけには行か・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のように、自然があばれ出して高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を危うくし財産を滅ぼす。その災禍を起こさせたもとの起こりは天然に反抗する人間の細・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・そして餌をねらう猛獣のような姿勢をして抜き足で出て来て、いよいよ飛びかかる前には腰を左右に振り立てるのである。どうかすると熊笹の中に隠れて長い間じっとしていると思うと、急に鯉のはね上がるように高くとび出して、そしてキョトンとしてとぼけた顔を・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・たとえばそれは小さいしかし恐ろしい猛獣がやけに檻にぶっつかるかと思うような音である。すると今まで鈍い眠りに包まれていた病室が急に生き生きした活気を帯びて来る。さらにこの活気に柔らかみを添えるのは、鉄をたたく音の中に交じってザブ/\ザブ/\と・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・魔術が曲馬に変形してそれが猛獣を呼出したと思われる。それからやはり前夜の食卓で何かのついでから、ずっと前に動物園の猛獣が逃出した事のあった話をした。それが猛獣肉薄の場面を呼出したかもしれない。「御菓子を持って来い」がどうも分らないが、しかし・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
出典:青空文庫