・・・お物見下のような処だから、いや遣手だわ、新造だわ、その妹だわ、破落戸の兄貴だわ、口入宿だわ、慶庵だわ、中にゃあお前勾引をしかねねえような奴等が出入をすることがあるからの、飛んでもねえ口に乗せられたり、猿轡を嵌められたりすると大変だ。 そ・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・(咽喉に巻いたる古手拭を伸して、覆面す――さながら猿轡のごとくおのが口をば結う。この心は、美女に対して、熟柿臭きを憚るなり。人形の竹を高く引えい。夫人、樹立の蔭より、半ば出でてこの体を窺いつつあり。人形使 えい。えい。夫・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 息子は、信じなかったけれ共、あんまりせめられ様がひどいので、取りのぼせて、自分で猿轡をはめて、姑の床のすぐ目の前で、夜中に喉をついて仕舞った。翌朝、姑が目を覚ました時、血だらけの眼をむいてにらんで居た。 松の助は、古い講談をする様・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫