・・・が、これは、勇しき男の獅子舞、媚かしき女の祇園囃子などに斉しく、特に夜に入って練歩行く、祭の催物の一つで、意味は分らぬ、と称うる若連中のすさみである。それ、腰にさげ、帯にさした、法螺の貝と横笛に拍子を合せて、やしこばば、うばば、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 道子がそのひと達を玄関まで見送って、部屋へ戻って来ると、壁の額の中にはいっている道子の卒業免状を力のない眼で見上げていた喜美子が急に、蚊細いしわがれた声で、「道ちゃん、生国魂さんの獅子舞の囃子がきこえてるわ。」 と、言った。道・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・ げんにその日も――丁度その日は生国魂神社の夏祭で、表通りをお渡御が通るらしく、枕太鼓の音や獅子舞の囃子の音が聴え、他所の子は皆一張羅の晴着を着せてもらい、お渡御を見に行ったり、お宮の境内の見世物を見に行ったり、しているのに、自分だけは・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・ あとで新聞を見たら、この地で七十年ぶりという珍しい獅子舞が演ぜられていたのである。それをちっとも知らないで、ただその見物の群集の背中だけ見物して帰った訳である。生え抜きの上田市民で丁度この日他行のためにこの祇園祭の珍しい行事に逢わなか・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・陳列品の中に獅子舞の獅子の面が二点あったが、その面に附いている水色に白く水玉を染出した布片に多分鬣を表わすためであろう、麻糸の束が一列に縫いつけてある。その麻糸の簾形に並んださまが、自分の夢に見た麻束の簾とよほどよく似ているのでちょっと吃驚・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
出典:青空文庫