・・・しかし、おかしいことには、これと同日同所で見せられたアメリカ映画「流行の王様」に、やはり同様に破産した事務所の家具が運び出される滑稽な光景がある。人夫がヒーローの帽子を失敬しようとする点まで全く同工異曲である。これは偶然なのか、それともプロ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 昨年見た「流行の王様」という映画にも黒白の駝鳥の羽団扇を持った踊り子が花弁の形に並んだのを高空から撮影したのがあり、同じような趣向は他にもいくらもあったようであるが、今度の映画ではさらにいろいろの新趣向を提供して観客の興味を新たにしよ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・初めの半分はオラーフ・トリーグヴェスソンというノルウェーの王様の一代記で、後半はやはり同じ国の王であったが、後にセント・オラーフと呼ばれた英雄の物語である。 大概は勇ましくまた殺伐な戦闘や簒奪の顛末であるが、それがただの歴史とはちがって・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・と王様の肩へ飛車を載せて見る。「おい由公御前こうやって駒を十枚積んで見ねえか、積めたら安宅鮓を十銭奢ってやるぜ」 一本歯の高足駄を穿いた下剃の小僧が「鮓じゃいやだ、幽霊を見せてくれたら、積んで見せらあ」と洗濯したてのタウエルを畳みながら・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・それでチョイと思いついたのは、矢張寐棺に入れて、蓋はしないで、顔と体の全面丈けはすっかり現わして置いて、絵で見た或国の王様のようにして棄てて貰うてはどうであろうか。それならば窮屈にもなく、寒くもないから其点はいいのであるが、それでも唯一つ困・・・ 正岡子規 「死後」
・・・「ぼくはいちばんはじめにあんずの王様のお城をたずねるよ。そしておひめ様をさらっていったばけものを退治するんだ。そんなばけものがきっとどこかにあるね。」「うん。あるだろう。けれどもあぶないじゃないか。ばけものは大きいんだよ。ぼくたちな・・・ 宮沢賢治 「いちょうの実」
・・・「さあ王様の命令です。引っぱって下さい。」 今度は、とのさまがえるは、だんだん色がさめて、飴色にすきとおって、そしてブルブルふるえて参りました。 あまがえるはみんなでとのさまがえるを囲んで、石のある処へ連れて行きました。そして一・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・「こんなきれいな珍らしい皮を、王様に差しあげてかざりにしてもらったらどんなに立派だろう。」そこで杖でその頭をぐっとおさえ刀でその皮をはぎはじめました。竜は目をさまして考えました。「おれの力はこの国さえもこわしてしまえる。この猟師・・・ 宮沢賢治 「手紙 一」
・・・けれども、今、私のようないやしいものでさえできる、まことのちからの、大きいことを王様にお目にかけよう」と云いながらまごころこめて河にいのりました。すると、ああ、ガンジス河、幅一里にも近い大きな水の流れは、みんなの目の前で、たちまちたけり・・・ 宮沢賢治 「手紙 二」
・・・それはいけないでしょう。王様がご存じですよ。」という間もなくもう赤い眼の蠍星が向うから二つの大きな鋏をゆらゆら動かし長い尾をカラカラ引いてやって来るのです。その音はしずかな天の野原中にひびきました。 大烏はもう怒ってぶるぶる顫えて今にも・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
出典:青空文庫