・・・町全体が一つの薄い玻璃で構成されてる、危険な毀れやすい建物みたいであった、ちょっとしたバランスを失っても、家全体が崩壊して、硝子が粉々に砕けてしまう。それの安定を保つためには、微妙な数理によって組み建てられた、支柱の一つ一つが必要であり、そ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・これが裂罅を温泉の通った証拠だ。玻璃蛋白石の脈だ。〔ここをごらんなさい。岩のさけ目に白いものがつまっているでしょう。これは温泉から沈澱したのです。石英です。岩のさけ目を白いものが埋めているでしょう。いい標本です。〕みんなが囲む。水の中だ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・蛋白石のいいのなら、流紋玻璃を探せばいい。探してやろう。僕は実際、一ぺんさがしに出かけたら、きっともう足が宝石のある所へ向くんだよ。そして宝石のある山へ行くと、奇体に足が動かない。直覚だねえ。いや、それだから、却って困ることもあるよ。たとえ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
むかし、ある霧のふかい朝でした。 王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃でたたんだ自分のお室から、ひょいっと芝生へ飛びおりました。 そして蜂雀のついた青い大きな帽子を急いでかぶって、どんどん向こうへかけ出し・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・ 二月十六日 春の日影 Feb. 23rd.巨大な砂時計の玻璃の漏斗から刻々をきざむ微かな砂粒が落るにつれ我工房の縁の辺ゆるやかに春の日か・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ 如何うして其那に笑うのだろう、卿等は―― 小粒な雨が、眠った湖面に玻璃玉の点ポツポツを描いても、アッハハハハと卿達は、大きな声で笑うだろう。 暗紅い稲妻が、ブラックマウンテンに燃立っても、水に跳び込む卿等は同じ筏から。・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫