・・・然も現下の支那に於ける思想上の混乱に際し、世界キリスト教青年大会というような麗々しい看板をかけて、一体彼等は何をなさんとするかということに対して、こういう反抗の気勢の揚ったのも偶然ではない。 今日の宣教師の中に幾人の人格者があるか。宗教・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・青白い浮腫がむくみ、黝い隈が周囲に目立つ充血した眼を不安そうにしょぼつかせて、「ちょっと現下の世相を……」語りに来たにしては、妙にソワソワと落ち着きがない。綿のはみ出た頭巾の端には「大阪府南河内郡林田村第十二組、楢橋廉吉A型、勤務先大阪府南・・・ 織田作之助 「世相」
・・・なぜならば、私の実行的人生に対する現下の実情は、何らの明確な理想をも帰結をも認め得ていないからである。人生の目的は何であろうか。われらが生の理想とすべきものは何であろうか。少しもわかっていない。 もちろんかような問題に関した学問も一通り・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・「もしも一個の人間が、現下に於て、最も深き認識に達すれば、コンミニストたらざるを得なくなる。」と。 しかしながら、文学に対して、最も深き認識に達したものは、コンミニストたらざるを得なくなるであろうか。 もしも、文学に対して、最も・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・もしこれを疑うものがあれば、現下の文壇を一例とするのが最も便利な方法である。自分は昨年の十月に月評を引き受けてやってみた。すると、或る種の人々は分らないと云って悪罵した。自分は感覚を指標としての感覚的印象批評をしたまでにすぎなかった。それは・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ことを実行する方が忠である。現下の険悪な世情は、政治家が聖勅に違背したことに基づく。というのは、天下万民をして「各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」との聖旨を奉戴しなかったことに基づく。国民の大部分がその志を遂げようとする・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫