・・・ 超世的詩人をもって深く自ら任じ、常に万葉集を講じて、日本民族の思想感情における、正しき伝統を解得し継承し、よってもって現時の文明にいささか貢献するところあらんと期する身が、この醜態は情ない。たとい人に見らるるの憂いがないにせよ、余儀な・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・である、只資格ある社会の人は其娯楽に理想を持って居らねばならぬ、乍併其理想的娯楽即品位ある娯楽は、修養を持って始めて得るべきものであって、単に金銭の力のみでは到底得ることは出来ぬ、予を以て見れば、現時上流社会堕落の原因は、 幸福娯・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・例えば現時の文学に対しても、露伴を第一人者であると推しながらも、座右に置いたのは紅葉全集であった。近松でも西鶴でも内的概念よりはヨリ多くデリケートな文章味を鑑賞して、この言葉の綾が面白いとかこの引掛けが巧みだとかいうような事を能く咄した。ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 僕はそれ等の作品を目して、セルフがはっきりと出ているからだと云いたい。それは即ち作者が作品を書くに当って何等一点の世俗的観念が入っていないと云うことを証明している。 現時文壇の批評のあるもの、作品のあるものは、作者が筆を執っている・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・ 若し、現時の我が文壇多くの芸術家が、人道を尊重し、愛を説き、正義に味方することを信念として、尚お、其の実、個人主義的態度を持続するならば、そして、強いて社会主義的精神を曲解し、其の種の運動に対して偏見を有するならば、ヒューズが平和のた・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・そしてとにかくわれわれの現時はないと言われている。自分の幼時にこの事を話した老人は現に自分でこれを体験したかのごとく話したが、それは疑わしいとしても、この老人の頭の若かった時代にこの話がかなりの生々しい色彩をもって流布されていた事は確からし・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・もし当時元軍に現時の気象学の知識があったなら、あの攻撃はあるいはもう数ヶ月延期したかもしれない。 日露戦役の際でも我軍は露兵と戦うばかりでなく、満洲の大陸的な気候と戦わなければならなかった。日本海の海戦では霧のために蒙った損害も少なくな・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・、シベリアは勿論のこと、北太平洋全面からオホツク海にわたる海面にかけて広く多数に分布された観測点における海面から高層までの気象観測を系統的定時的に少なくも数十年継続することが望ましいのであるが、これは現時においては到底期待し難い大事業である・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・そういう事を研究することを喜ばないような日本現時の不思議な学風がそういう研究の出現を阻止しているのではないかと疑われる。 余談ではあるが、先日田舎で農夫の着ている簔を見て、その機構の巧妙と性能の優秀なことに今さらに感心した。これも元はシ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・それはとにかく、あの運動遅鈍なみみずでさえ、同じ種族と考えられるものが、「現時の大洋」を越えてまでも広がっているという事実を一方に置いて考えてみる。もちろんこの蚯蚓の先祖と人間の先祖とどちらが古いかというような問題はあってもそれは別として、・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
出典:青空文庫