・・・然として落着き澄まして、咳さえ高うはせず、そのニコチンの害を説いて、一吸の巻莨から生ずる多量の沈澱物をもって混濁した、恐るべき液体をアセチリンの蒼光に翳して、屹と試験管を示す時のごときは、何某の教授が理化学の講座へ立揚ったごとく、風采四辺を・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ その発火のもとは、病院の薬局や、学校の理化学室や、工場なぞの、薬品から火が出たのや、諸工場の工作ろや、家々のこんろなぞから来たものもありますが、そのほかにとび火も少くなかったようです。何分地震で屋根がこわれ落ちているところへ、どんどん・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
風呂の寒暖計 今からもう二十余年も昔の話であるが、ドイツに留学していたとき、あちらの婦人の日常生活に関係した理化学的知識が一般に日本の婦人よりも進んでいるということに気のついた事がしばしばあった。例えば下・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ 四 宇宙線 理化学が進めば世の中に不思議はなくなるであろうと言う人がある。しかし科学が進めばかえって今まで知られなかった新しい不思議なものも出て来るのである。現在物理学者の問題となっている宇宙線などもその一例である・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 呼び鈴に限らず多くの日本製の理化学的器械についてよく似た事に幾度出会ったかわからないくらいである。たとえばおもちゃのモートルを店屋でちょっとやってみる時はよく回るが買って来て五分もやればブラシの所がやけてもういけなくなる。 蓄音機・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・ この事が哲学やその他文科方面の研究思索について真実である事はむしろよく知られた事であると思うが、理化学の方面でもやはりそうだという事はあまりよく知られていないようである。 四 ストウピンのセロの演奏を聞・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・それは、理化学の進歩の結果としてあらゆる交通機関が異常に発達したのはよいが、その発達が空間的時間的に不均整なために、従来は接触し得なかったような甚だしい異質的なものの接触が烈しくなり、異質間の異性質のグレディエントが大きくなった。そうして、・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・しかるにまだ日本のどこにも一つの理化学的火災研究所のある話を聞いた覚えがないのである。 もちろん警視庁には消防部があって、そこでは消防設備方法に関する直接の講究練習に努力しておられることは事実であるが、ここでいわゆる火災研究とはそういう・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
理化学の進歩が国運の発展に緊要であるという事は永い間一部の識者によって唱えられていたが、時機の熟せなかったため一向に世間には顧みられなかった。欧洲の大戦が爆発して以来は却って世間一般特に実業者の側で痛切にこの必要を感ずるよ・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫