・・・おとよさんが人の妻でなかったらその親切を恋の意味に受けたかもしれないけれど、生娘にも恋したことのない省作は、まだおとよさんの微妙なそぶりに気づくほど経験はない。 元来はこの秋二軒が稲刈りをお互いにしたというも既におとよさんの省作いとしか・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・勿論結納金はかなりの金額で、主人としては芸者を身うけするより、学問のある美しい生娘に金を出す方が出し甲斐があると思ったのだが、これがいけなかった。新妻は主人に体を許そうとしなかった。自分は金で買われて来たらしいが、しかし体を売るのは死ぬより・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 教える様にさとす様に云いましたけど、ローズだってまだ娘なんですもん、美くしい小い詩人の頭の中に考えられて居る事がどうして世間知らずの生娘に分るもんですか。自分までたよりない様な悲しい気持になって目からは熱いものがにじみ出ました。考える・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫