・・・夫婦の間に子なき其原因は、男子に在るか女子に在るか、是れは生理上解剖上精神上病理上の問題にして、今日進歩の医学も尚お未だ其真実を断ずるに由なし。夫婦同居して子なき婦人が偶然に再縁して子を産むことあり。多婬の男子が妾など幾人も召使いながら遂に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・左れば小児を丈夫に養育せんとならば、仮令い巨万の富あるも先ず其家を八瀬大原にして、之に生理学問上の注意を加う可きのみ。一 尚お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 心理学、医学に次いで、生理心理学を研究し始めた。是等に関する英書は随分蒐めたもので、殆ど十何年間、三十歳を越すまで研究した。呉博士と往復したのも、参考書類を読破しようという熱心から独逸語を独修したのも、此時だ。けれども其結果、どうも個・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・「ああ、ぼくはねえ、前に植物の先生をしたから、植物の生理のことや、ほかにも何か三つぐらいは教えてあげるよ。それはねえ。いままでのようにごたごた要らないことまでおぼえて物知りになることはいらないんだ。ほんとうに骨組みと要るとこだけやればい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・中には折角組合が自分たち働く者の全体としての条件の一つとしてかちとった婦人の生理休暇について、婦人たちを恥かしがらせるような批評をする人さえもある。実際今日組合は、婦人のために、つまり未来の妻と母のために、女性を保護する大切な生理休暇をかち・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・女の子は汗じみたなりを辛抱しているという一つのことにしても、男の学生よりは生理的に心理的に苦痛が多いのです。日本のような社会の歴史をもったところでは、この矛盾のひどい中で悪に抵抗して力一杯生きようとしているけなげな若い女性のためには、男の人・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の庭に、木葉が掃いても掃いても溜まる頃であった。丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・それは生理的に実に自然に空を見上げているのだった。円い、何もない、ふかぶかとした空を。―― 高田の来た日から二日目に、栖方から梶へ手紙が来た。それには、ただ今天皇陛下から拝謁の御沙汰があって参内して来ましたばかりです。涙が流れて私は・・・ 横光利一 「微笑」
・・・大学の池のまわりを歩きながら、自分の目が年のせいで何か生理的な変化を受けたのではないかと、まじめに心配したほどであった。 京都から時々上京して来たときにも、この緑の色調の相違を感じなかったわけではない。しかし三日とか五日とかの短い期間だ・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・痛苦を堪え忍ぶ時彼はこの生が生理的偶然に過ぎないという考えを悦ぶことができるか。――この問いに「否」と答える人の多いことはわかっている。しかし「しかり」と答える人もまた多数であることは否み難い。そこで問いを新しくする。人はこの常識以上に深い・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫