・・・日曜に天気のいいという確率、家族の甲乙丙の銘々が暇だという三つの確率、この四つがそれぞれ二分の一ずつだとしても、十六分の一しか都合のいい日の確率はない訳であるから、統計的に云えば思い立ってから平均十六週すなわち約四ヶ月待たなければならなかっ・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・「甲乙二人の旅人あり、甲は一時間一里を歩み乙は一里半を歩む……」といったような題を読んでその意味を講義して聞かせて、これをやってごらんといわれる。先生は縁側へ出てあくびをしたり勝手のほうへ行って大きな声で奥さんと話をしたりしている。・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ たとえば子音転訛の方則のごときでも、独断的の考えを捨てて、可能なるものの中から甲乙丙……等の作業仮定を設けて、これらにそれぞれ相当するPを算出し、また一方この仮定による実際の比較統計の符合の率を算出し、この両者を比較して、その結果から・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・また温度以外にその物体の伝導度によるのである。寒暖計の示度によらないで冷温を言う場合にはその人によってまるでちがった判定を下す事になる。これでは普遍的の事実というものは成り立たぬ。また甲乙二物体の温度の差でも触覚で区別できる差は寒暖計で区別・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・また甲乙二つの知識が単独には大した役に立たないのが二つ一処になったおかげで大変な役に立ったという例はいくらでもある。 そういう考えからすれば、あまり純粋な化学薬品のような知識を少数に授けるよりは、草根木皮や総菜のような調剤と献立を用いる・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・二種の高さの音をそれぞれに取り離して全く別々に聞くだけならば、振動数がかなりちがってもたいしてちがった感じの違いは起こらないのが、二つの音を相次いで聞くときに始めて甲乙二音の音程差に対して特別な限定が生じ、そこからいわゆる音階が生まれて来る・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ これらの条項に差等をつけると同時にこれらの条項中のあるものは性質において併立して存在すべきも、甲乙を従属せしむべきものでないと云う事に気がつくかも知れぬ。しかもその併立せるものが一見反対の趣味で相容れぬと云う事実も認め得るかも知れぬ―・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・順序があるからには甲乙が共に意識せられるのではない。甲が去った後で、乙を意識するのであるから、乙を意識しているときはすでに甲は意識しておらん訳です。それにもかかわらず甲と乙とを区別する事ができるならば、明暸なる乙の意識の下には、比較的不明暸・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・一、官の学校にては、おのずから衣冠の階級あるがゆえに、正しく学業の深浅にしたがって生徒席順の甲乙を定め難き場合あり。この弊を除くの一事は、議論上には容易なれども、事実に行われざるものなり。その失、三なり。一、官の学校にある者は、みず・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・暗誦、おのおの等を分ち、毎月、吟味の法を行い、春秋二度の大試業には、教員はもちろん、平日教授にかかわらざる者にても、皆、学校に出席し、府の知参事より年寄にいたるまで、みずから生徒に接して業を試み、その甲乙に従て、筆、紙、墨、書籍等の褒美をあ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
出典:青空文庫