・・・「それにあの人は何と云っても、男好きのする顔だから、――」 叔母はやっと膝の上の手紙や老眼鏡を片づけながら、蔑むらしい笑いかたをした。するとお絹も妙な眼をしたが、これはすぐに気を変えて、「何? 叔母さん、それは。」と云った。・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・「巳は男好きだというけれど……」お絹はいささか非をつけるように言って、躯を壁ぎわの方へ去らして横になった。「それあ何だね」道太は何だかいっぱい入っている乱れ函の上にある、二捲の反物に目をつけた。「これ? 何だかこんなもの置いてい・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・美人質ではないが男好きのする丸顔で、しかもどこかに剣が見える。睨まれると凄いような、にッこりされると戦いつきたいような、清しい可愛らしい重縁眼が少し催涙で、一の字眉を癪だというあんばいに釣り上げている。纈り腮をわざと突き出したほど上を仰き、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫