・・・オセロが、却ってそれで妻の貞潔を疑いはしないだろうか、と―― 舞台の上に見れば美しくあり悲劇でもあるこの女奴隷の恋めいたオセロへの畏怖から、イヤゴーの心理的トリックは着々と成功してゆく。そして遂に、かがやくばかりに美しかった白と黒との調・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・そこにもう絶対的な或るもの――禰宜様宮田にとってはこの上ない畏怖となって感じられた、両者の位置の懸隔――を認めることに、馴されきっているのである。 何を云われても、彼はただハイ、ハイとお辞儀ばかりをした。 一通り云うだけのことを云う・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 尊敬され、或は畏怖される文学上の同輩であったろうか。 私共はここにおいて実に興味ある一つの現実に遭遇する。それは、バルザックが一八三〇年代からフランス文学に咲き乱れていた絢爛たるロマンチシズム文学の只中にあって、全く一人の例外者、ユー・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫