・・・しかしその平和を得るためには必ずしも異種の民族の特徴を減却しなくてもいいという考えだそうである。ユダヤ民族を集合して国土を立てようというザイオニズムの主張者としてさもありそうな事である。桑木理学博士がかつて彼をベルンに尋ねた時に、東洋は東洋・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 新東京の街路や河岸に立って、ありとあらゆる異種の要素の細かい切片の入り乱れた光景を見るときに、私は自然に日本帝国の地質図を思い出す。いろいろの時代のいろいろの火成岩や水成岩が実に細かいきれぎれになってつづれの錦を織り出している。この事・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・れば結局こういうよりほかはないであろう――にふけっている一方で、かねてから、これも道楽として、心がけている日本楽器の沿革に関する考証は自然に世界各地の楽器の比較に移って行く、その途中で、遠くかけ離れた異種民族の楽器が、その楽器としての本質に・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ その次に引用された十首は春秋の草花に対して自分の病の悲しみを詠じたものであるが、これには異種の植物名が八つとほかに「秋草花」という言葉が現われ、「春」の字が三、「秋」が二、そうして十首のおのおのにいろいろな形で病者の感慨が詠み込まれて・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・この開攘の二家ははじめより元素を殊にする者なれば、理において決して抱合すべきに非ざれども、当時の事情紛紜に際し、幕府に敵するの目的をもって、暫時の間、異種の二元素、たがいに相投じたることあり。これを思えば、今の民権論者が不平を鳴らすその間に・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫