・・・と大いに異説を唱えていました。 半之丞の話はそれだけです。しかしわたしは昨日の午後、わたしの宿の主人や「な」の字さんと狭苦しい町を散歩する次手に半之丞の話をしましたから、そのことをちょっとつけ加えましょう。もっともこの話に興味を持ってい・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・ましてその首や首のない屍体を発見した事実になると、さっき君が云った通り、異説も決して少くない。そこも疑えば、疑える筈です。一方そう云う疑いがある所へ、君は今この汽車の中で西郷隆盛――と云いたくなければ、少くとも西郷隆盛に酷似している人間に遇・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・また雷鳴の音響の生因について種々の考えがあげてあるが、この問題については現在でもまだ種々の異説があるくらいである。この方面の研究に没頭せる気象学者にとっては、この一節は尽きざる示唆の泉を与えるであろう。 また風が速度のために熱するという・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・もし佐橋甚五郎が事に就いて異説を知っている人があるなら、その出典と事蹟の大要とを書いて著者の許に投寄してもらいたい。大正二年三月記。 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・その中で諸家のコンメンタアルに異説のある難句が、枚挙するに遑あらぬ程である。然るにここに書いた四箇条の誤訳は、皆極平易な句に過ぎぬ。そうでないのは所謂「とがき」などである。今後は難渋な句の誤訳をも、もしどこかにあったら、発見して貰いたい。私・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫