・・・このごろ、あなたの少しばかりの異風が、ゆがめられたポンチ画が、たいへん珍重されているということを、寂しいとは思いませんか。親友からの便りである。私はその一葉のはがきを読み、海を見に出かけた。途中、麦が一寸ほど伸びている麦畑の傍にさしかかり、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・山海万里のうちに異風なる生類の有まじき事に非ず」と云ったとしてある。その他にも『永代蔵』には「一生秤の皿の中をまはり広き世界をしらぬ人こそ口惜けれ」とか「世界の広き事思ひしられぬ」とか「智恵の海広く」とか云っている。天晴天下の物知り顔をして・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・大概の家では女中らはもちろん奥さんや娘さんまでのぞきに出て来て、道化た面をかぶった異風な小こじきの狂態に笑いこける。そこには一種のなんとなく窈窕たる雰囲気があったことを当時は自覚しなかったに相違ないが、かなりに鮮明なその記憶を今日分析してみ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・この異風な物売りはあるいは明治以後の産物であったかもしれない。「お銀が作った大ももは」と呼び歩く楊梅売りのことは、前に書いたことがあるから略する。 しじみ売りは「スズメガイホー」と呼び歩いた。牡蠣売りは昔は「カキャゴー」と言ったもの・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
出典:青空文庫