・・・自と他とが一つの有機体に結合することによってその結合に可能な最大の効率を上げ、それによって同時に自他二つながらの個性を発揚することでなければならない。 孔子や釈迦や耶蘇もいろいろなちがった言葉で手首を柔らかく保つことを説いているような気・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・現代の世ほど heroism に欠乏した世はなく、また現代の文学ほど heroism を発揚しない文学は少かろうと思います。現代の世に荘厳の感を起す悲劇は一つも出ないのでも分ります。現代文芸の理想が美にもあらず、善にもあらずまた荘厳にもあら・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・それでいながら、新らしきもの、古きものが溌剌と活溌に矛盾のままを発揚し、そのことによって発育してゆく可能を喪失して、一方では極めて低く単一化されている姿は、過去の歴史に対する今日の歴史の本質として深い省察と苦悩とを与えるものだが、それ故にこ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・然し、既に今日の現実の中では、わが個性の確立、発展の欲求を自覚すると同時に、実際問題としてそれを制約している事情との日常的な相剋があり、社会的事情の改善なしに個性の発揚は不可能であるという客観的事実を示している思想は、空な一流派の流行とかそ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・それを発揚した時代への思慕は、女の服飾の流行に桃山時代好みとして再現されている。国威というものの普通解釈されている内容によって、それを或る尊厳、確信ある出処進退という風に理解すると、今回のオリンピックに関しては勿論、四年後のためにされている・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 現代数万の女性は、いやいや母になり、万已を得ず生れた子を育て、傍ら、自己発揚の機会を奪われている不平を述ております。 これは、どちらに対しても――自己と云う箇人に対しても、子供に対しても、無良心極る冒涜です。 ロザリーは、職業・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 云ってみれば文化の科学性そのものの弱さと、発揚の場面の限界の狭さとが文化の社会的な性格をもってここにあらわれているのだと思う。寺田寅彦氏の随筆にしろ、愛好する人は尠くないが、果してあれらの随筆は科学者としての寺田博士の高さをそのまま表・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・そして、そういう日本資本のひろがりを国威発揚と表現する方が便宜だった。その方が人民の伝統的な国びいきの感情を刺戟し、満足させ、世界のどの文明国よりもやすい労働賃銀で一台の自転車にしろ生産して、より多い利潤率を保つことが出来やすかったから。資・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ということは、かつてベルリン・オリンピックのとき、軍国主義日本が示した国威発揚的示威に正しい批判をもつこんにちの日本青年は、世界平和のためにこそ、平和日本のためにこそ、世界の民主的青年とともに競技するものであるという態度を明確にする以外にな・・・ 宮本百合子 「ボン・ボヤージ!」
・・・それにいつものような発揚の状態になって、饒舌をすることは絶えて無い。寧沈黙勝だと云っても好い。只興奮しているために、瑣細な事にも腹を立てる。又何事もないと、わざわざ人を挑んで詞尻を取って、怒の動機を作る。さて怒が生じたところで、それをあらわ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫