・・・もっとも恋愛の円満に成就した場合は別問題ですが、万一失恋でもした日には必ず莫迦莫迦しい自己犠牲をするか、さもなければもっと莫迦莫迦しい復讐的精神を発揮しますよ。しかもそれを当事者自身は何か英雄的行為のようにうぬ惚れ切ってするのですからね。け・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・「ふん、犠牲的精神を発揮してか?――だがあいつも見られていることはちゃんと意識しているんだからな。」「意識していたって好いじゃないか。」「いや、どうも少し癪だね。」 彼等は手をつないだまま、もう浅瀬へはいっていた。浪は彼等の・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・いつかは第四階級はそれを発揮すべきであったのだ、それが未熟のうちにクロポトキンによって発揮せられたとすれば、それはかえって悪い結果であるかもしれないのだ。第四階級者はクロポトキンなしにもいつかは動き行くべき所に動いて行くであろうから。そして・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・だから私は第四階級の思想が「未熟の中にクロポトキンによって発揮せられたとすれば、それはかえって悪い結果であるかもしれない」といったのだった。そして「クロポトキン、マルクスたちのおもな功績はどこにあるかといえば……第四階級以外の階級者に対して・・・ 有島武郎 「片信」
・・・見よ、彼らの亡国的感情が、その祖先が一度遭遇した時代閉塞の状態に対する同感と思慕とによって、いかに遺憾なくその美しさを発揮しているかを。 かくて今や我々青年は、この自滅の状態から脱出するために、ついにその「敵」の存在を意識しなければなら・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 友染の長襦袢は、緋縮緬の長襦袢よりは、これを着て、其の色を発揮させるに於いて、確に容易である。即ち友染は色が混って居るがため、其の女の色の白いと然らざるとに論無く、友染の色と女の顔の色とに調和するに然までの困難は感ぜぬ。緋縮緬に至って・・・ 泉鏡花 「白い下地」
・・・青み加わるさやさやしさ、一列に黄ばんだ稲の広やかな田畝や、少し色づいた遠山の秋の色、麓の村里には朝煙薄青く、遠くまでたなびき渡して、空は瑠璃色深く澄みつつ、すべてのものが皆いきいきとして、各その本能を発揮しながら、またよく自然の統一に参合し・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・これからが満幅の奇を思うままに発揮した椿岳の真生活であって、軽焼屋や油会所時代は椿岳の先史時代であった。八 浅草生活――大眼鏡から淡島堂の堂守 椿岳の浅草生活は維新後から明治十二、三年頃までであった。この時代が椿岳の最も奇を・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・その時の二葉亭の答が、今では発揮と覚えていないが、何でもこういう意味であった。「一体文章の目的は何である乎。真理を発揮するのが文章の目的乎、人生を説明するのが文章の目的乎、この問題が決しない中は将来の文章を論ずる事は出来ない。この問題が定ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 事件の異常なる場合に際して、私達のそれに出遇った時の感情や、意志がまた著しく働くということも事実であるが其人の人格は、またいかなる小事に対しても発揮されるでありましょう。たとえば旅行をして遠くへ行かなくとも永久の自然は其の町に、其の村・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
出典:青空文庫