・・・彼等の中には、他に幾つも別荘を所有する者もあって、たゞ一つという訳でなく、所有欲より、すべての山林、畑地の名儀にて登記し、公然、脱税せるものもあるのだ。かりに、これを借りることも、規律正しく使用するに於ては、ために一木一草を損うことなくすむ・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・明日はこの村の登記所へ私たちはちょっとした用事があった。私たちの村はもう一つ先きの駅なのだが、父が村にわずかばかし遺して行ってくれた畑などの名義の書き替えは、やはりここの登記所ですませねばならなかった。それだけが今度の残務だった。「登記・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・裏の登記所のお坊ちゃんなのである。固苦しく言えば、青森県区裁判所金木町登記所々長の長男である。子供のころは、なんのことかわからず、ただ、トキショ、トキショと呼んでいた。私の家のすぐ裏で、W君は、私より一年、上級生だったので、直接、話をしたこ・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・いい病院がほしいということ、いい図書館がほしい、いい託児所がほしい、というわたしたちの希望は、それを自分の所有として、私有の財産として登記したい心もちとはちがいます。社会のもの、みんなのものとして、そういうものがあればよい。現在金もちだけの・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ ――私、戸籍登記所で改名する! ワーニカは、マトリョーナの赤い頬っぺたと、そこへおちてる金髪を眺めた。 ――マクシムに私注意した、もう。でもあいつがそれをきかない訳知ってる? マトリョーナだからさ! 私が。 ワーニカは思わ・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫