・・・また或人申しけるは、容顔美麗なる白拍子を、百人めして、――「御坊様。」 今は疑うべき心も失せて、御坊様、と呼びつつ、紫玉が暗中を透して、声する方に、縋るように寄ると思うと、「燈を消せ。」 と、蕭びたが力ある声して言った。・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・あやつりの竹の先に、白拍子の舞の姿、美しくたけたり。夫人熟と視て立停る。無言。雨の音。ああ、降って来た。まあ、人形が泣くように、目にも睫毛にも雫がかかってさ。……(傘を人形にかざして庇人形使 (短き暖簾を頭にて分け、口大く、・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・蕪村に至りては阿古久曽のさしぬき振ふ落花かな花に舞はで帰るさ憎し白拍子花の幕兼好を覗く女ありのごとき妖艶を極めたるものあり。そのほか春月、春水、暮春などいえる春の題を艶なる方に詠み出でたるは蕪村なり。例えば伽・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫