・・・ それから十分ばかりたった後、僕等はやはり向い合ったまま、木の子だの鶏だの白菜だのの多い四川料理の晩飯をはじめていた。芸者はもう林大嬌の外にも大勢僕等をとり巻いていた。のみならず彼等の後ろには鳥打帽子などをかぶった男も五六人胡弓を構えて・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・ 食卓には、つくだ煮と、白菜のおしんこと、烏賊の煮附けと、それだけである。私はただ矢鱈に褒めるのだ。「おしんこ、おいしいねえ。ちょうど食べ頃だ。僕は小さい時から、白菜のおしんこが一ばん好きだった。白菜のおしんこさえあれば、他におかず・・・ 太宰治 「新郎」
・・・パン値上げお知らせ。白菜は一株について四十銭ですよ。どうぞそのおつもりでお香物もあがって下さい。 私が初めて世帯をもったのは、丁度ヨーロッパ大戦が終ってほどない時代であった。初めて女房の心持で、白砂糖を買ったら、何でも一斤五十銭の上した・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
白菜と豚の三枚肉のお鍋 そろそろ夜がうすら寒くなってくると家でよくするお惣菜の一つです。白菜を四糎位に型をくずさない様にぶつぶつ切りまして、三枚肉は普通に切ったのを一緒に水をたっぷり入れてはじめからあ・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
・・・微かに障子紙の匂いを感ずる―― 食べたいものの第一は支那料理の白菜羹汁だ。それからふろふき大根。湯豆腐。 特徴ある随筆の筆者斎藤茂吉氏は覊旅蕨という小品を与えた。 同行二人谷譲次氏は新世界巡礼の途についた。そして Mem タニが・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・というスローガンで市場へ売り出す白菜や南京豆の代りに、こういうものを作りはじめたんだ。 × 天井の棟から、五分芯ランプが下ってる。左翼劇場のビラの下に壁へ濃い陰影をおとしながらギッシリつめかけて坐ってるのは、婦人部の連中だ。二十・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
出典:青空文庫