・・・……先達って、奥様がお好みのお催しで、お邸に園遊会の仮装がございました時、私がいたしました、あの、このこしらえが、余りよく似合ったと、皆様がそうおっしゃいましたものでございますから、つい、心得違いな事をはじめました。あの……後で、御前様が御・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有った時の、手附、顔色に体の工合をお考えなすって下さいまし。小宮山は結局、あッと言った手、足、顔、そのままで、指の尖も動かなくなったのでありまする。「よく御存じでございま・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・こんな風に言われたから、民子はすっかり自分をあきらめたらしく、とうとう皆様のよい様にといって承知をした。それからは何もかも他の言うなりになって、霜月半に祝儀をしたけれど、民子の心持がほんとうの承知でないから、向うでもいくらかいや気になり、民・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ 私は時が長くなりましたからもうしまいにいたしますが、常に私の生涯に深い感覚を与える一つの言葉を皆様の前に繰り返したい。ことにわれわれのなかに一人アメリカのマサチューセッツ州マウント・ホリヨーク・セミナリーという学校へ行って卒業してきた・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・わたくしは皆様方のお望みになる事なら、どんな事でもして御覧に入れます。大江山の鬼が食べたいと仰しゃる方があるなら、大江山の鬼を酢味噌にして差し上げます。足柄山の熊がお入用だとあれば、直ぐここで足柄山の熊をお椀にして差し上げます……」 す・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・候に引き換えて母上はますます元気よろしくことに近ごろは『ワッペウさん』というあだ名まで取られ候て、折り折り『おしゃべり』と衝突なされ候ことこれまた貞夫よりの事と思えばおかしく候、『おしゃべり』と申せば皆様すぐと小生の事に思し召され候わば大違・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・「皆様お早う御座います」と挨拶するや、昨日まで戸外に並べてあった炭俵が一個見えないので「オヤ炭は何処へ片附けたのですか」 お徳は待ってたという調子で「あア悉皆内へ入ちゃったよ。外へ置くとどうも物騒だからね。今の高価い炭を一片だっ・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ それは皆様がマッターホルンの征服の紀行によって御承知の通りでありますから、今私が申さなくても夙に御合点のことですが、さてその時に、その前から他の一行即ち伊太利のカレルという人の一群がやはりそこを征服しようとして、両者は自然と競争の形に・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・何も別にお話する程の珍らしい事もございませぬが、本当に、いつもいつも似たような話で、皆様もうんざりしたでございましょうから、きょうは一つ、山椒魚という珍動物に就いて、浅学の一端を御披露しましょう。先日私は、素直な書生にさそわれまして井の頭公・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・お国では、皆様おかわりございませぬでしょうか。」 男爵は、やっと思い出した。「あ、とみ、とみだね。」田舎の訛が少し出たほど、それほど男爵は、あわてていた。十年まえ、とみは、田舎の男爵の家で女中をしていた。かれが高等学校にはいったばか・・・ 太宰治 「花燭」
出典:青空文庫