・・・因習と戦いながら、人間として向上しようとしてきた女の人は、向上の方向がグラグラしてくると、その向上心そのものが、一つの極めて妥協的な世俗的な立身の方へいつの間にやら流れ込んでしまう危険が実に深刻です。目安がないから積極性が方向かまわず積極積・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・新しい日本というものの目安からごく概念的に一方的に下される過去の文学への批判の性質を噛みわけて文学の問題として摂取成長してゆくより先、作家というものの文化的存在の可能不可能、ひいてはたつきの問題へ性急に迫って現れて、そこで作品とは切りはなれ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・作家の間にバルザック、ドストイェフスキー、スタンダールなどの読み直しが流行したのであったが、この古典の読み直しに際しても所謂新しいリアリズムの解釈法が附きまとって、例えば、バルザックについての目安は、このフランスの大作家が王党であったにも拘・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・の中で、一番守りたい点、一番成長させたい点、一番得て行きたい点、或はまた一番与えて行きたい点というものを、自分ではっきり見極わめ、そのことの為めには、まあどうでもよいことは、第一のものに次ぐものとして目安に置いて、中心を押して生活を基いて行・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・それがなぜ力として芸術化されにくいか、或いはその創作が多くの場合、彼女は女であるという目安の上に置かれて批判され、価値づけられているか、この点に関しては、例えば「性」の問題を取扱うとして、つぎの如きもどかしさがその創作を裏切る。即ち「性の問・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・ それに対して日本は、今日と全く違った目安でヨーロッパ諸国からは見られていたのであったから、イギリスの力を勘定に入れてもこの取組は、世界の注目の的となるのは当然であったろう。 ロシアの艦隊が、その実質にはツァーの政府の腐敗を反映して・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・プロレタリア文学が運動としての形を失っているからと言って、プロレタリア文学の作品の実質が、最少抵抗線に沿った目安で評価されてよいものであろうか。「希望館」という一篇の小説は私にさまざまの疑問を与えた。 作者は「希望館」という一つの保護施・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・プロレタリア文学者として云々という我にもひとにも通じる目安が、ぼけている。文学の仕事は、個性的なものであって、それぞれの作家は自分の足でだけ自身の道をプロレタリア文学の大道の中にふみわけてゆくのではあるが、プロレタリア文学者とブルジョア文学・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・明日に向って人間の自己は、より成長し、より責任ある社会的な性格をもって文学に甦らなければならないのであるが、その目安をもって私たちが自己の再発見をなし得るための客観的な力として、現実に在るのは、批判の精神をおいて他に無い。 文学がどんな・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・従って、大衆と云い、民衆と云うその目安がどこにどのように置かれるかということによって、将来の文学そのものの本質が左右される。文学が、単に低きについたことにならされぬように、作家は警戒し努力しなければならないと思う。従来のような生活ぶりの作家・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫