・・・仁右衛門は小屋の真中に突立って隅から隅まで目測でもするように見廻した。二人は黙ったままでつまごをはいた。妻が風呂敷を被って荷を背負うと仁右衛門は後ろから助け起してやった。妻はとうとう身を震わして泣き出した。意外にも仁右衛門は叱りつけなかった・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 太陽や月の仰角を目測する場合に大抵高く見過ぎる。その結果として日出後または日没前の一、二時間には太陽が特別に早く動くような気がする。 山の傾斜面でもその傾斜角を大きく見過ぎるのが通例である。 これらと少し種類はちがうが、紙上に・・・ 寺田寅彦 「観点と距離」
・・・ 自分の目測したところではほととぎすの飛ぶのは低くて地上約百メートルか高くて二百メートルのところであるらしく見えた。かりに百七十メートル程度とすると自分の声が地上で反射されて再び自分の所へ帰って来るのに約一秒かかる。ところがおもしろいこ・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・ 試みに近い範囲の電線に止まっている三十五匹のとんぼの体軸と電線とのはさむ角度を一つ一つ目測して読み取りながら娘に筆記させた。その結果を図示してみるとそれらの角度の統計的分布は明瞭に典型的な誤差曲線を示している。三十五匹のうち九匹はだい・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・自分のほうでもひそかにこの人の有名な耳と鼻の大きさや角度を目測していた。 この人の芝居でいちばん自分の感心したのは船上の盛綱の物語の場である。しかしそれよりもこの人に感心したのは氏が先年H子夫人と同伴で洋行したときに、パリ在住の通信員に・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・上昇速度は目測の結果からあとで推算したところでは毎秒五六十メートル、すなわち台風で観測される最大速度と同程度のものであったらしい。 煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸を刻まれていて内部の擾乱渦動の劇烈なことを示している。そう・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ とんびの滑翔する高さは通例どのくらいであるか知らないが、目測した視角と、鳥のおおよその身長から判断して百メートル二百メートルの程度ではないかと思われる。そんな高さからでもこの鳥の目は地上のねずみをねずみとして判別するのだという在来の説・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・それのみか、五六ヵ月も働くと、銑鉄を削る百分の二粍の相異の目測さえするようになる。大河内氏は、日本の女子の天才の一つとしてそれを感歎し、それは改良されている機械の機構と、「その使いかたが単調無味であるように製作されてあるほど精密に加工される・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫