・・・壁にかかった星座早見表は午前三時が十月二十何日に目盛をあわせたまま埃をかぶっていた。夜更けて彼が便所へ通うと、小窓の外の屋根瓦には月光のような霜が置いている。それを見るときにだけ彼の心はほーっと明るむのだった。 固い寝床はそれを離れると・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・ 日頃酒を好む者、いかにその精神、吝嗇卑小になりつつあるか、一升の配給酒の瓶に十五等分の目盛を附し、毎日、きっちり一目盛ずつ飲み、たまに度を過して二目盛飲んだ時には、すなわち一目盛分の水を埋合せ、瓶を横ざまに抱えて震動を与え、酒と水、両・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・一メートルの標準尺度の二つの目盛りの中心の間を単位とすれば一メートルの尺度はそれただ一つである。そして頼みに思うその唯一の長さは、実は前に煩わしく述べたような訳であまり一定なものではないのである。 有難い事には万物相関の影響は収斂級数で・・・ 寺田寅彦 「方則について」
出典:青空文庫