・・・ お光は喩えようのない嫌悪の目色して、「言わなくたって分ってらね」「へへ、そうですかしら。私ゃまたどうかと思いまして」 お光は横を向いて対手にならぬ。 為さんはその顔を覗くようにして、「お上さん、親方は何だそうですね、お上さ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 台所で後かたづけをしながら、いろいろ考えた。目色、毛色が違うという事が、之程までに敵愾心を起させるものか。滅茶苦茶に、ぶん殴りたい。支那を相手の時とは、まるで気持がちがうのだ。本当に、此の親しい美しい日本の土を、けだものみたいに無神経・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・自分の思って居る事、考えて居る事を、男が味のない話でうちこわしにかかると女はいつでもフッと口をつぐんで、すき通る結晶体の様な様子をしてたかぶった目色をして男を見て居た。時には自分の予期して居る返事とまるであべこべの事を云われた時の辛い心を味・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫