・・・おれの、とても手のとどかないような素晴らしい女にして下さい。ね、たのむ。あいつには、あなたが、絶対に必要なんだ。おれの直感にくるいはない。畜生め。おれにだって、誇があらあ。おれは、地べたに落ちた柿なんか、食いたくねえのだ。」 青年は陰鬱・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・また科学者には直感が必要である。古来第一流の科学者が大きな発見をし、すぐれた理論を立てているのは、多くは最初直感的にその結果を見透した後に、それに達する論理的の径路を組み立てたものである。純粋に解析的と考えられる数学の部門においてすら、実際・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ かつて経験のない私にも、このいつにない三毛の挙動の意味は明らかに直感された。そして困ったものだと思った。妻はいないし、うちにいる私の母も年の行かぬ下女もいずれも猫の出産に際してとるべき適当の処置についてはなんらの予備知識も持ち合わせな・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・それを見たときこれならこの建物は大丈夫だということが直感されたので恐ろしいという感じはすぐになくなってしまった。そうして、この珍しい強震の振動の経過を出来るだけ精しく観察しようと思って骨を折っていた。 主要動が始まってびっくりしてから数・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・その時私は直感的に、これが虚子という人ではないかと思った。その後子規の所で出会ってその直感の的中していたことを知ったのである。中折帽に着流しでゴム靴をはいて、そしてひどく考え込んだような風でゆっくり歩いて来る姿をはっきり覚えているように思う・・・ 寺田寅彦 「高浜さんと私」
・・・時の前後の観念はとにかく直感的なものであって、なんらかの自然現象に関して方則を仮定する事なしに定義を下しうべき性質のものではないと思われる。 吾人が外界の事象を理解し系統化するための道具として、いわゆる認識の形式の一つとして「時」を見な・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・但しそれは何も作家の学問的知識から生れたものでなくて、芸術家としての鋭利な直感によるのが普通ではあろうが、ともかくもそこに現われているものは立派な科学的事実でしかも吾人にとって新しいものである。そうでない場合には浅墓な三面記事と選むところは・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・少なくも優れた科学者が方則を発見したりする場合には直感の力を借りる事は甚だ多い。そういう場合には論理的の証明や分析はむしろ後から附加されるようなものである。また一方において漫画家の抽象は必ずしも直感のみによるとは考えられない。たとえ無意識に・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・しかし彼の『省察録』Meditationes などを読んでも、すぐ気附くことは、その考え方の直感的なことである。単に概念的論理的でない。直感的に訴えるものがあるのである。パスカルの語を借りていえば、単に l'esprit de gomtri・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・そして感情するためには、ニイチェの言葉の中から、すべての省略された意味、即ち彼の慣用する音楽術語で言ふ Con motoの部分を、自分で直感的に会得せねばならない。そして此処に、彼の理解への最も困難な鍵がある。たしかに人の言ふ如く、カントの・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
出典:青空文庫