・・・支那の儒者も孔孟の道を尊び、日本の儒者も孔孟の書を読み、双方ともにその教の源を同じゅうして、その社会に分布したる結果において、まったく相反するは、偶然に非ずして何ぞや。けだし、支那の儒教は敵なきがゆえに、その惑溺をたくましゅうし、日本の・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・ 菊池寛のこの人生と歴史へのテーマの本質のありようが、芥川とどんなに相反するものであったかということは、大正末期、欧州大戦後の日本の社会が画期的波瀾にめぐり会ったとき、芥川はあのような生涯をとじ、菊池寛は「真珠夫人」等によって大衆文学の・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ この一見相反するように見える婦人の生活に対する観方を彼らはもっとも便利に縫い合わせる術を知っている。家が大事という封建的な立場に立った感情を婦人の心に強くめざめさすことは食うに食えなくなった家のために話にならぬほどの低賃銀で十三時間も・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ あれを書き、これも書きという風にツルゲーネフは、自分の気分に応じてそれぞれ全く相反する「父と子」や「煙」を書いている。 ロシアの急進的な若い男女は、階級と階級との益々明らかな対立、そこから生じる現実の烈しい鍛錬によって、「ルージン・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ このように相反する時代精神を享受する情熱が、何故に芭蕉の芸術的精神を肯けないのであろう。抽象性は、何故に芭蕉に面して透明を欠き、具体的となるのであろうか。 芭蕉の作物には源氏物語のような書きだしがないからであろうか。或は林氏のよう・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・栖方は、その中心の渦中に身をひそめて呼吸をして来たのであってみれば、父と母との争いのどちらに想いをめぐらせるべきか、という相反する父母二つの思想体系にもみぬかれた、彼の若若しい精神の苦しみは、想像にかたくない。同一の問題に真理が二つあり、一・・・ 横光利一 「微笑」
・・・洋画にとっては、ムラなく単色に塗られた広い画面のごときは、美しいものの相反である。むしろ微妙な数限りのないムラがあればこそ、実在性の豊かな美しさが現われて来るのである。しかし日本絵の具で絹の上に、あるいは金箔の上に、洋画の静物の背景のような・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・私は心からの涙に浸された先生の死のあとにそれとは相反な惨ましい死を迎えるはずであった。しかし先生の死の光景は私を興奮させた。私は過激な言葉をもって反対者を責め家族の苦しみを冒して、とうとう今日の正午に瀕死の病人を包みくるんだ幾重かの嘘を切っ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫