・・・ と編集員の一人が相槌を打って冷やかした。 杉田はむっとしたが、くだらん奴を相手にしてもと思って、他方を向いてしまった。実に癪にさわる、三十七の己を冷やかす気が知れぬと思った。 薄暗い陰気な室はどう考えてみても侘しさに耐えかねて・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・辰さんが板敷から相槌をうつ。いつかの大嵐には黒い波が一町に余る浜を打上がって松原の根を洗うた。その時沖を見ていた人の話に、霧のごとく煙のような燐火の群が波に乗って揺らいでいたそうな。測られぬ風の力で底無き大洋をあおって地軸と戦う浜の嵐には、・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・志士の典型、井伊も幕末の重荷を背負って立った剛骨の好男児、朝に立ち野に分れて斬るの殺すのと騒いだ彼らも、五十年後の今日から歴史の背景に照らして見れば、畢竟今日の日本を造り出さんがために、反対の方向から相槌を打ったに過ぎぬ。彼らは各々その位置・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫