・・・社会の形成の変遷につれ次第に財産とともにそれを相続する家系を重んじはじめた男が、社会と家庭とを支配するものとしての立場から、その便宜と利害とから、女というものを見て、そこに求めるものを基本として女らしさの観念をまとめて来たのであった。それ故・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ギャングにさらわれ、波瀾の激しい日を送りながらも心の浄い少年が、ついに助け出され巨大な遺産を相続して旦那におさまれるのが、この世の現実であるならば、子供らにとって次第に荒いものとなるその生涯の路上で、堅忍であり、努力的であることも、いわばき・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなければならないのとは異い、幾人か同胞があれば交際、事業などは各自の選択によって行っている場所では、特に長子が多分の遺産を相続する必要がありません。 子の為に・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・そういう有様で、祖母はわたしの下の弟を相続人として養子にするという話をもち出していた。きっと、その前後、母はロンドンにいる父に相談するにも遠すぎるいろいろの心持から祖父の墓詣りをしばしばする心もちになっていたのだったろう。 紛糾しつづけ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・家族制度全集」という叢書が東京河出書房から出されはじめた。法学博士穂積重遠、中川善之助両氏の責任監輯で、各巻第一部史論篇、第二部法律篇全部で五巻十冊の予定である。内容は婚姻。離婚。親子。家。相続。各巻をなしていずれも、今日に至るまでの社会の・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・条項、第八百一条から第八百四条に至る財産に対する妻の無権利、第八百十三条の離婚についての不平等な規定、第八百八十六条から第八百八十七条に至る親権において母の権利の制限されていること、第九百七十条その他相続或は遺産に対する婦人の差別的な規定、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 従四位下侍従兼肥後守光尚の家督相続が済んだ。家臣にはそれぞれ新知、加増、役替えなどがあった。中にも殉死の侍十八人の家々は、嫡子にそのまま父のあとを継がせられた。嫡子のある限りは、いかに幼少でもその数には漏れない。未亡人、老父母には・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・追って家督相続をさせた後に、恐多いが皇室の藩屏になって、身分相応な働きをして行くのに、基礎になる見識があってくれれば好い。その為めに普通教育より一段上の教育を受けさせて置こうとした。だから本人の気の向く学科を、勝手に選んでさせて置いて好いと・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・家督相続の事を宜しく頼む。敵を討ってくれるように、伜に言って貰いたいと云うのである。その間三右衛門は「残念だ、残念だ」と度々繰り返して云った。 現場に落ちていた刀は、二三日前作事の方に勤めていた五瀬某が、詰所に掛けて置いたのを盗まれた品・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・だからここに茸の価値と言われるものは、この自己没入的な探求の体験の相続と繰り返しにほかならぬのであって、価値感という作用に対応する本質というごときものではない。茸の価値は茸の有り方であり、その有り方は茸を見いだす我々人間の存在の仕方にもとづ・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫