・・・これは不必要だから、ここには省く事にした。 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・これを省くとも鉄道運河の大体の設計にはなんらの支障を生ずる事なかるべし。これに反して荷車を挽く労働者には道路の小凹凸は無意味にあらず。墓地の選定をなさんとする人には山腹の崖崩れは問題となるべし。 世人の天気予報に対する誤解と不平は畢竟こ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・に土木局に命じてこの道路を作らしめたかどうだかその辺はいまだに判然しないが、とにかく自転車用道路として申分のない場所である、余が監督官は巡査の小言に胆を冷したものか乃至はまた余の車を前へ突き出す労力を省くためか、昨日から人と車を天然自然とこ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・例を一々挙げると宜いのですが、それは一々挙げません。例を省くと詰らないものになりますが、早く済みますから、詰らなくして早く切り上げてしまおうと思う。 それから、法則というものは社会的にも道徳的にもまた法律的にもあるが、最も劇しいのは軍隊・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・料理法は釣る方とは関係がちがうから省くが、河豚釣りに行っても、普通の魚のように、釣りあげてすぐ、船の上でサシミにしたり、焼いたり煮たりなどしては食べないのである。食べる人もあるが、それは食通とはいえない。イイダコ カニやイイ・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ その法、他なし、文部省、工部省の学校を分離して御有となすときは、本省においては、従来学校に給したる定額を省くべきは当然の算数にして、この定額金は必ず大蔵省に帰することならん。大蔵省においては期せずして歳出を減じたることなれば、その金額・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・の職分たりしを、要路の者の考に、足軽は煩務にして徒士は無事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明にして下士の首を押えんとの考を交え、その実はこれがため費用を省くにもあらず、武備を盛にするにもあらず・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも退屈なれば書く主人にも迷惑千万、結句ない方がましかも知らねど、是も事の順序なれば全く省く訳にもゆかず。因て成るべく端折って記せば暫時の御辛抱を願うになん。 凡そ形あれば茲に意あ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・この理由の説明は省くが、あれ等の記事の中で特に注意を牽いたものの一つに堺真柄さんの女監一巡がある。 あれを見出した時、私は自分の裡から湧き出す期待をもって読んだ。数年来、私は女性を監獄ではどう取扱うのか知りたいという欲望をもっていた。売・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
社会生活のあらゆる面が今日のように複雑だと、実際生活の合理化といっても家事整理の手間を出来るだけ省くとか二重生活の煩をさけるとか申すことに止めがちです。その範囲でいえば、私は境遇の上の理由から仕事とその仕事の本質的な方向の・・・ 宮本百合子 「生活の理想と実際」
出典:青空文庫