・・・この故に観音経を誦するもあえて箇中の真意を闡明しようというようなことは、いまだかつて考え企てたことがない。否な僕はかくのごとき妙法に向って、かくのごとく考えかくのごとく企つべきものでないと信じている。僕はただかの自ら敬虔の情を禁じあたわざる・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・と、いう言葉の真意を見出されるようになったのです。 これ等の心やりも、注意も、みな子供に対する深い愛からに他ありません。自分が子供を持ってみて、はじめて他の親たる人達の心も理解されるのです。自分の子供が可愛ければ、他の子供にもやさしくな・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・たとえば自然の風物に対しても、そこには日毎に、というよりも時毎に微妙な変化、推移が行われるし、周囲の出来事を眺めても、ともすればその真意を掴み得ないうちにそれがぐん/\経過するからである。しかし観察は、広い意味の経験の範囲内で、比較的冷静を・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・ 倶楽部の人々は二郎が南洋航行の真意を知らず、たれ一人知らず、ただ倶楽部員の中にてこれを知る者はわれ一人のみ、人々はみな二郎が産業と二郎が猛気とを知るがゆえに、年若き夢想を波濤に託してしばらく悠々の月日をバナナ実る島に送ることぞと思えり・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・夫なる老人の取繕いげにいうも真意なきにあらず。「さなり、げにその時はうれしかるべし」と答えし源叔父が言葉には喜び充ちたり。「紀州連れてこのたびの芝居見る心はなきか」かくいいし若者は源叔父嘲らんとにはあらで、島の娘の笑い顔見たきなり。・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・という、仏陀の予言と、化導の真意をあらわす、彼の本領の宣言書である。彼の不屈の精神はこの磽こうかくの荒野にあっても、なお法華経の行者、祖国の護持者としての使命とほこりとを失わなかった。 佐渡の配所にあること二年半にして、文永十一年三月日・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・彼女の真意では、しばらく蜂谷の医院に養生した上で、是非とも東京の空まではとこころざしていた。東京には長いこと彼女の見ない弟達が居たから。 蜂谷の医院は中央線の須原駅に近いところにあった。おげんの住慣れた町とは四里ほどの距離にあった。彼女・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・それを持ち出して、伜の真意を聞こうとした。 新七は言った。「お母さんは――結局どういうことを言おうとするつもりなんですかね」 昔者のお三輪には、そう若い人達の話すように、思うことが思うようには言い廻せなかった。どうかすると彼女は・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・生れて、はじめて、自愛という言葉の真意を知った。エゴイズムは、雲散霧消している。 やさしさだけが残った。このやさしさは、ただものでない。ばか正直だけが残った。これも、ただものでない。こんなことを言っている、おめでたさ、これも、ただもので・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・なぜ私に送って下さるのか、その真意を解しかねた。下劣な私は、これを押売りではないかとさえ疑った。家内にも言いきかせ、とにかく之は怪しいから、そっくり帯封も破らずそのままにして保存して置くよう、あとで代金を請求して来たら、ひとまとめにして返却・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
出典:青空文庫