・・・ のびにのびた髪の毛が、白い地に美事な巻毛になって居て、絹の中に真綿を入れてくくった様な耳朶の後には、あまった髪の端が飾りの様に拡がって居た。 華やかな衣の中で、長閑らしく、首を動かしたり、咲いた許りの花の様な手を、何か欲しげに袖か・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・祖母は、足袋の先に真綿を入れて呉れたので足はいくらか暖かい。一本筋の高い処にある道を、静かながら北の山からすべり落ちて来る風にあらいざらい吹きさられて、足の遅いお伴と一緒に、私はもうちっと早く歩きたいもんだなあと思いながら歩いて行く。道はま・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・グレシア正教の寺院を沈滞のままに委せて、上辺を真綿にくるむようにして、そっとして置いて、黔首を愚にするとでも云いたい政治をしている。その愚にせられた黔首が少しでも目を醒ますと、極端な無政府主義者になる。だからツアアルは平服を著た警察官が垣を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 十一日にりよは中奥目見に出て、「御紋附黒縮緬、紅裏真綿添、白羽二重一重」と菓子一折とを賜った。同じ日に浜町の後室から「縞縮緬一反」、故酒井忠質室専寿院から「高砂染縮緬帛二、扇二本、包之内」を賜った。 九郎右衛門が事に就いては、酒井・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫