・・・永代の橋の上で巡査に咎められた結果、散々に悪口をついて捕えられるなら捕えて見ろといいながら四、五人一度に橋の欄干から真逆様になって水中へ飛込み、暫くして四、五間も先きの水面にぽっくり浮み出して、一同わアいと囃し立てた事なぞもあった。・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・いっそ、どうだい、そう云う、ももんがあを十把一とからげにして、阿蘇の噴火口から真逆様に地獄の下へ落しちまったら」「今に落としてやる」と圭さんは薄黒く渦巻く煙りを仰いで、草鞋足をうんと踏張った。「大変な権幕だね。君、大丈夫かい。十把一・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・豚はぐうと鳴いてまた真逆様に穴の底へ転げ込んだ。するとまた一匹あらわれた。この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、遥の青草原の尽きる辺から幾万匹か数え切れぬ豚が、群をなして一直線に、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸けて鼻を鳴らしてく・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・(急いで下りるつもりで砂をふみ外して真逆様 * * * * * 目を明いて見ると朝日はガラス戸越しに少しくさし込んで、ストーブは既に焚きつけてある。腰の痛み、脊の痛み、足の痛み、この頃の痛みというものは身動・・・ 正岡子規 「初夢」
出典:青空文庫